モノイド

定義

モノイド

モノイド(monoid)とは,以下の3つのデータからなる.

これらは以下を満たす.

準同型

モノイド𝑀,𝑁を与える.

写像 𝑓 : 𝑀 𝑁 で以下を満たすものを,(モノイド)準同型と呼ぶ.

同型

全単射な準同型同型(isomorphism)と呼ぶ.

同型の始域終域の(組の)ことも同型(isomorphic)と呼ぶ.

モノイドの圏

とするモノイドの圏(category of monoids)と呼び𝐌𝐨𝐧と表す.

モノイドは写像とその合成は,結合則さえ満たせば,恒等写像を単位元としてモノイドをなす.その表れっぽいのが次.

モノイドと単一対象圏

モノイドは対象が単一の圏と対応関係にある(後日ちゃんと書く).

以下一般のモノイドの性質を見ていくが,当然半群と単位的マグマの性質を合わせたものである.

同型定理

モノイドの圏の部分対象,正規対象,商対象を確認し,同型定理を示す.

部分モノイド

モノイド𝑀を与える.

𝑀の部分集合𝑁𝑀が,𝑀に関してモノイドになる,つまり以下を満たすとき,𝑁𝑀部分モノイドと呼ぶ.

  • 𝑁 𝑁 𝑁
  • 1 𝑁

自明な部分モノイド

モノイド𝑀を与える.

𝑀と,単位元のみからなる集合{1}は,𝑀部分モノイドとなる.これらを𝑀自明な部分モノイド(trivial submonoid)と呼ぶ.

それ以外の部分モノイド非自明と呼ぶ.

生成系

を与える.

𝑁 𝑛 = 0 𝑁 𝑛 𝑁を含む最小の𝑀部分モノイドとなる.これを𝑁で生成される部分モノイドと呼ぶ.

特に, 𝑀 = 𝑁 を満たすとき,𝑁𝑀生成系と呼ぶ.

正規・商モノイドを定義する準備をしよう.

関係の正規閉包

を与える.

正規閉包 ncl に関して,以下が成り立つ. ncl = 𝑛 = 0 ( 𝑀 ( op ) 𝑀 ) 𝑛

合同正規関係)に関しては,マグマに同じ.

(左)単位的マグマと同様,合同に対する単位元同値類を考えることが有用である.

正規部分モノイド

モノイド𝑀を与える.

部分モノイド𝑁で,以下を満たすものを正規部分モノイドと呼ぶ.

  • 𝑥 𝑁 , 𝑦 𝑀 , { 𝑥 𝑦 = 1 𝑦 𝑁 𝑦 𝑥 = 1 𝑦 𝑁
  • 𝑥 , 𝑦 𝑀 , 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁

正規部分モノイドの性質

モノイド𝑀𝑀正規部分モノイド𝑁を与えると,以下が成り立つ.

𝑥 , 𝑦 𝑀 , 𝑥 𝑦 𝑁 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁

証明

𝑥 𝑁 𝑦 𝑁 のとき, 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁 だが,1𝑁より, 𝑥 𝑦 𝑁

また, 𝑥 𝑦 𝑁 のとき,再び1𝑁より, 𝑥 𝑁 𝑦 𝑁

モノイドの正規閉包

モノイド𝑀を与える.

また,部分集合𝐴𝑀に対し, 𝐴 𝐴 { 𝑦 𝑀 | 𝑥 𝐴 , 𝑦 𝑥 = 1 } { 𝑦 𝑀 | 𝑥 𝐴 , 𝑥 𝑦 = 1 } 𝑋 𝐴 { ( 𝑥 , 𝑦 ) 𝑀 × 𝑀 | 𝑥 𝐴 𝑦 𝐴 } 𝐴 1 𝐴 𝐴 𝑛 + 1 ( 𝑥 , 𝑦 ) 𝑋 𝐴 𝑛 𝑥 𝐴 𝑛 𝑦 と定める.

ncl ( 𝐴 ) 𝑛 = 1 𝐴 𝑛 𝐴正規閉包(normal closure)と呼ぶ.

これにより,合同を与えることと,正規部分モノイドを与えることは等価であるとわかる.

商モノイド

モノイド𝑀を与える.

  • 𝑀誘導する合同に対し, 𝑀 は自然な積 𝑥 , 𝑦 𝑀 , [ 𝑥 ] [ 𝑦 ] [ 𝑥 𝑦 ] に対してモノイドをなす.これをによる商モノイドと呼ぶ.
  • 正規部分モノイド𝑁に対し,𝑁誘導する合同による商モノイドが,上の意味で定義できる.これを𝑁による商モノイドと呼び, 𝑀 𝑁 𝑀 と表す.

を与える.

ker 𝑓 𝑓 1 ( 1 𝑁 ) 𝑓と呼ぶ.

同型定理

第一同型定理
モノイド𝑀,𝑁準同型 𝑓 : 𝑀 𝑁 を与えると,以下が成り立つ.
第二同型定理
モノイド𝑀𝑀部分モノイド𝑆𝑀正規部分モノイド𝑁を与えると,以下が成り立つ.
第三同型定理
モノイド𝑀正規部分モノイド𝑁,𝑂を与え,𝑂𝑁𝑀を満たすとすると,以下が成り立つ.

性質

零モノイド

零モノイド(zero monoid)(または自明なモノイド(trivial monoid))とは,一元集合 1 { 0 } に積を 0 + 0 0 と定めたもので,明らかにモノイドとなる.

自由モノイド

自由モノイド

(文字の)集合𝐴を与える.

(集合)𝐴上の自由モノイド(free monoid)とは,以下のデータからなる.

形式的には上のようになるが,語(文字列)を数学的な列というより,「普通の」文字列として𝑚𝑜𝑛𝑜𝑖𝑑のように書く慣習である.

自由モノイドはモノイド

集合上の自由モノイドは,空文字列単位元とするモノイドをなす.

モノイドの表示

を与える.

以下の(本質的に等価な)いずれかの方法で表されるモノイドを,モノイドの表示と呼ぶ.

このとき(モノイドの生成系と同じ意味で)𝑋生成系(generators)と呼ぶ.また,関係𝑅,またはその正規閉包のことを関係(式)(relation)と呼ぶことがある.

有限表示

生成系が有限なモノイドの表示有限表示と呼ぶ.

モノイドの表示の性質

参考文献

正規部分モノイドに関して
J. ELGUETA, “Normal Submonoids And Congruences On A Monoid,” Journal of the Australian Mathematical Society, vol. 116, no. 3, pp. 331–362, 2024. doi:10.1017/S1446788723000204